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お誕生日なので!

せっかくだしと、春生まれのキャラの小話でも。
「十六の春」本編読了後水晶です。アーシャの正確な誕生日は決めてないです。










誕生日はおもいの結晶


 パーーン!! と少々耳障りな破裂音に、ヴィーがぎょっとしてこちらを向いた。
 よし、本から視線を奪うの成功。お小遣いで買ったクラッカーは無事に役目を果たしてくれた。

「おめでとう私! ありがとう私! 世界が私の誕生日を祝福してる!!」

 突然の奇行の説明をすることもなく、私は高らかに宣言する。
 まんまるになっていたヴィーの赤い瞳が、細められ、そしてひそめられていく。

「あ、やめてそんな冷たい目で見ないで! 心折れる!」
「別に……」
「うるさくして申し訳ない! どうせヴィーは私の誕生日とか覚えてないだろうし、とりあえず私が騒いで知らせてあわよくばお祝いの言葉をもらえればっていう浅知恵だったの!」
「アーシャの思考は理解できない」

 はぁ、とため息をつくヴィーに、本気で心が折れそうになる。
 私、そんなにわがままなこと言ってるかな? 誰だって誕生日は祝ってほしいものだよね?
 そりゃあたしかに、本を読んでいたのを邪魔したのは悪いと思う。日付が変わる瞬間に祝ってほしかったから、ヴィーが寝ちゃわないよう好きな本をそっと置いておくというトラップを仕掛けたのも私だ。まんまと引っかかってくれたのはいいけど、声をかけても反応がないくらい入り込まれたのは悲しかった。いや、それも自分本意な考え方かな……。

「だ、だって……こ、こここ恋人なら、おめでとうって言ってもらっても、バチは当たらないでしょ?」
「よくわからない」
「うううう……」

 泣きたい。泣いてしまいたい。いっそ大泣きして哀れみと共にお祝いの言葉をもらうべきか。
 私はヴィーが好きで好きで大好きで、ヴィーも私のことが好き、なはずだ。先月想いを通わせたばかりのはずで、私たちは恋人同士のはずで、むしろ一緒に住んでるから夫婦みたいなもののはずなのに。
 たまに、わからなくなる。すぐに、不安になる。
 ヴィーは本当に私のことが好きなのかなって。
 片思いの期間が長すぎたせいかもしれない。身体が若返ったって、心が重ねた年月を覚えてる。
 わかりやすく好意を示してくれるような人じゃないってことは、重々承知していたはずなんだけど。
 ……やっぱり、わがままになっているのかもしれない。
 感情の読めない紅玉を見つめながら、くしゃりと顔を歪めたとき。

「どうして僕がアーシャの誕生日を覚えてないこと前提なのかも、どうしてアーシャが言葉だけで満足しようとしてるのかも、僕には理解できない」
「え……?」

 不可解そうにひそめられた形のいい眉。
 赤い瞳の奥に、かすかな憤りがチラついた。
 ヴィーの言葉を飲み込みきれず、固まる私に、彼は懐から何かを取り出して突きつけてきた。
 編み紐でネックレス状にされた、結晶石。

「はい、これ。あの花から色素だけ抜き取って蛍石に込めた、世界でひとつだけの宝石。アーシャは高いものよりも手作りのもののほうが喜びそうだったから」

 透明な結晶の中に、赤い色がマーブル状に広がっている。まるで炎のように揺らめいていて、ヴィーへの恋心が熱く燃える私の心のようだと思った。
 石を染めるなんて聞いたことがないから、きっとまたヴィーのデタラメすぎる魔法の力でどうにかしたんだろう。
 両手でそっと受け取ると、冷たいはずの石からぬくもりを感じた。石自体が、熱を放っている。さすがはヴィー。寒がりな私のためにホッカイロ機能まで。笑うべきところのはずなのに、火をつけられたのは腹筋じゃなくて目頭だった。

「それと……誕生日、おめでとう。アーシャが生きていてくれて、僕の傍にいてくれて、僕はうれしい」
「……っ!!」
「……泣かれると困るんだけど。誕生日くらい、毎年祝ってあげるよ。十年だって百年だって」

 困惑顔で、いっそ迷惑そうにも見える表情で、ヴィーは甘く優しい約束をくれる。
 うれしくて、うれしすぎて、私は何も言えずに彼に抱きついた。
 ああもう、ぎこちなく頭なんて撫でられたら、余計に涙が止まらないじゃないか、ヴィー。
 泣かないで、って言うくせにヴィーは私を泣かせるのが大得意だ。

 きっとヴィーは知らない。
 今日は私の誕生日で、そして、私が押しかけ女房をしにここを訪ねてきた日でもあるんだよ、って。
 わざわざ日にちを合わせたのは、それだけ特別な日にしたかったっていう乙女ゴコロなんだよ、って。
 そう言ったら、ヴィーはどんな顔をするんだろう。
 あの時、勇気を出して本当によかった。あのめちゃくちゃな選択があったから今がある。ヴィーの隣という居場所がある。

 今はまだ夢みたいな、目が覚めたら消えちゃうんじゃないかって不安になってしまうくらい不確かな、両思いだけど。
 ヴィーの気持ちがたしかに私を向いているなら、私はそれだけで一生夢を見ていられるし。
 不器用に示される愛の深さに、夢よりもさらにしあわせな現実があるんだって、いつか私は実感するんだろう。





そういえばここで言うのもあれなんですが、なろうトップにある「今日の一冊」で食べられが紹介されましたー(●´ω`●)

今日の一冊:「異世界トリップしたその場で食べられちゃいました」

(∩´∀`)∩ワーイワーイ

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